求められる産業医の役割。半分近くの非常勤「対応しきれる自信ない」。

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2019年4月より「働き方改革関連法」が順次施行されることに伴い、長時間労働者や高ストレス者との面談や、労働者からの健康相談など、従業員の健康管理(産業保健)において産業医に求められる役割はますます増加していくことが予想されています。

一方、産業医の大半は、「非常勤」として従事する産業医であり、事業所への訪問も月1回程度に限られているのが実態です。

こうした状況の中で、実際に産業医として従事している産業医519人に、働き方改革の中で求められる「産業医としての役割やその対応について、どのように考えているのか」について、現状と課題感の調査を実施しました。事業所への訪問頻度は、常勤産業医は「毎日(常駐)」、非常勤産業医は「月1回」が最多従事先の事業所規模は、常勤は1,000人以上が28%、非常勤は50~99人が33%で最多となっています。

従事先の事業所への訪問頻度は、常勤は毎日(常駐)が46%、非常勤は月1回が54%で最多です。産業医の半数以上が働き方改革による「役割負担の増加」を感じているが、非常勤産業医はそれに「対応しきれる自信がない」産業医の56%が、働き方改革によって「産業医に求められる役割が増えている、もしくは増えていく」と感じています。

求められる産業医の役割に、常勤の産業医は49%が「対応しきれる」と回答した一方、非常勤の産業医は43%が「対応しきれる自信がない」と回答しています。

対応しきれる自信がない理由としては、長時間労働やメンタル不調の面談数が増えている中で、対応する「時間の不足」もしくは、メンタルヘルス問題に対応する「専門性の不足」を挙げる声が多かったことがあげられます。

「対応しきれる自信がない」とした産業医のコメントとして、以下のようなものがありました。

「月1回の訪問では、過重労働面談、メンタル失調対応面談でかなりの時間がつぶれています。

今後労務管理にまで色々と助言等しなくてならないとなると時間的に難しいです(非常勤)」。

メンタルヘルス等、専門分野外の内容が増えてきているから(非常勤)」。「産業医の責任が次第に重くなってきている(非常勤)」。

「本来は病院勤務医であり、産業医活動に使える時間が少ない(非常勤)」。

 

その産業医面談のニーズの高まりに、産業医の3人に1人(常勤は32%、非常勤は30%)が、現状のままでは対応しきれる自信がないと回答しています。

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「対応しきれる自信がない」とした産業医のコメントとして、以下のようなものがありました。

「毎回面談者も増えており、今後今の勤務時間では不足すると予想している(非常勤)」。「メンタルヘルスへの対応に自信がない(常勤)」。

「メンタル不調が増えていくと、専門外なので何かおきたら困るのでやめようか検討中(非常勤)」。

「常勤医での仕事が忙しく、面談が多くなれば対応できない(非常勤)」。

 

一方、「対応しきれる」とした産業医のコメントとして、以下のようなものがありました。

「対応するために昨年から2年越しで体制を整えてきているため(常勤)」。

「同僚に心療内科医師がおり、相談できる体制にあるため(常勤)」。

「企業がすでに超過残業60時間/月を目標とし、ほぼ達成できているから(非常勤)」。

「要点を押さえ面談時間を短くする(非常勤)」。

産業医の4割が、ストレスチェックにおける「高ストレス者との面談」が十分に行えていないと感じている産業医の42%が、ストレスチェックで高ストレス者だった従業員との産業医面談を、十分に行えていないと感じています。理由としては、「対象者が面談希望を申し出ない」、「時間が足りない」という声が多かったです。

 

「十分に行えていない」とした産業医のコメントとして、以下のようなものがありました。

「会社に把握されるのを望まずに、産業医面談を希望しない人が多い(非常勤)」。

「高ストレス者の内、申し出て実際に面談に至るのは、5%程度(非常勤)」。

「時間が足りない(非常勤)」。

「精神的な内容になってくると、自分でも分からない場面がある(非常勤)」。「本音を見せない従業員もいるので(常勤)」。

産業医の3人に1人は、「産業医面談をオンラインで行っても問題ない」「オンラインによって産業医面談を増やせる」と考えている産業医の35%が、産業医面談をオンライン(テレビ電話)で行っても問題ないと考えており、「表情が分かればよい」「オンラインの方が話し易い人もいる」という声がありました。また、産業医の36%が、産業医面談をオンラインで行うことで、産業医面談の数や頻度を増やすことができると思うと回答しています。

「移動時間が節約できる」や「遠方の事業所の社員にも対応できる」という声がありました。「問題ない」とした産業医のコメントとして、以下のようなものがありました。

「オンラインの方が話し易い人もいる(常勤)」。

「メンタルの不調者を早期発見し、対応するには良いツールに成り得る(非常勤)」。

一方、「問題がある」とした産業医のコメントとして、以下のようなものがありました。

「細かいところ、表情、しぐさ等の雰囲気が分からないと無理だと思う(非常勤)」。

「プライバシーへの配慮の問題が気になる(常勤)」。

「利便性が向上する反面、気さくにいつでも面談を求められてしまい、業務が膨大になる(非常勤)」。

「増やせると思う」とした産業医のコメントとして、以下のようなものがありました。

「遠方の事業所で面談に来ることが難しい社員への対応の幅が広がる(非常勤)」。

 

一方、「変わらないと思う」とした産業医のコメントとして、以下のようなものがありました。

「面談に割ける時間は変わらないため(常勤)」。

「臨床医としての仕事が忙しく、回数を増やせない(非常勤)」。

「面談のニーズがそれほど無かったため(非常勤)」。

産業医の半数は、従業員からの健康相談に「十分に応じられていない」と感じており、非常勤産業医ほどその割合は高い従業員からの日常的な健康相談に対して、常勤では49%、非常勤では56%の産業医が「十分に応じられていない」と回答しました。

訪問回数が限られる非常勤産業医の方が、不十分さを感じています。

また、その健康相談の内容については、産業医が対面で応じる相談は「内科」「精神科」に偏るのに対して、匿名でのチャット相談では、様々な科目での相談が従業員から寄せられています。

 

「十分応じられていないと思う」とした産業医のコメントとして、以下のようなものがありました。

「月1回の訪問では限界があります(非常勤)」。

「従業員も会社に健康問題を把握されるのは望んでいない(非常勤)」。

 

 

ストレスチェック制度が始まり、働き方改革が始まり、それに伴い労働安全の課題が増えました。

それに一翼担う産業医の業務量も増えます。

しかし、産業医の請け負える業務量に対し求められている量が上回ります。

そこで、産業医は対応が不十分になってしまうのでしょう。